2019年ももう11月ということで2019年11月を舞台にした映画をレビューしたいと思います。
【あらすじ】
酸性雨の降りしきる2019年のロサンゼルス。
元ブレードランナー(レプリカントと呼ばれる人造人間の処分が専門の警官)のデッカードは地球に潜り込んだ4体のレプリカントの解任(殺害)を命じられる。
渋々任務を引き受け遂行していくデッカードだったが、レプリカントの製造元、タイレル社にいる美しいレプリカントのレイチェルも解任の対象であることを知る。
【感想】
映像、美術、音楽、演技がこれだけの完成度で化学反応を起こした映画は他に無いと思います。
まず撮影ですが、40年近く前の作品とは思えません。
スター・ウォーズのオリジナル三部作なんかは素晴らしい特撮映画であるのは確かですが、色々補正しまくった最新バージョンでも今観ると苦しい部分が多々あります。
ブレードランナーも数多くあるバージョンで微妙に手直しは加わってますが、今見ても十分に通用する出来です。
どこまでもモヤのかかったような空気、影になった部分の黒と煙のコントラストは見惚れてしまうほどの美しさ。
次に美術。
もともと未来の車のデザイン担当として雇われたインダストリアルデザイナー、シド・ミードが建物やインテリアまでデザインしています。
それまでのクリーンな未来のイメージとは真逆の雑然とした暗い未来のイメージは当時の人にはさぞ衝撃的だっただろうと想像します。
工場萌え、ネオン街萌え、廃墟萌えなどの人には堪らないんじゃないかと思います。
音楽も本作を唯一無二の映画たらしめている大きな要素です。
ヴァンゲリスのひたすら暗く哀愁漂うスコアは一度聴いたら耳から離れません。
ヴァンゲリスの凄さはメロディーの美しさだけでなく音をタペストリーのように曲の中に組み込んでいることだと思います。
幸いなことに劇場で観る機会があったのですが、曲が効果音というか環境音のようなもので埋め尽くされていることに気づきました。
映画館じゃなくても良いオーディオやヘッドホンなんかで聞いたら分かるかもしれません。
ヴァンゲリスの仕事は単なる劇伴ではなく未来の世界の音を作る域にまで達していると思います。
そして俳優の演技。
デッカードを始め人間(諸説あり)が死んだ魚みたいな目をして人間っぽさが薄いのに対し、レプリカントを演じる俳優は喜怒哀楽の激しい非情に人間的な演技をしています。
特筆すべきなのはやはりレプリカントのリーダー、ロイ・バッティを演じたルトガー・ハウアー。
終盤の怪演は観ている側まで怖くなるほど真に迫っています。
そして半分アドリブだという最後のセリフ。
もはや神々しさまで感じます。
それまでずっとジメジメして暗い映画に一瞬だけ一条の光が差し込んだような爽やかな感動があります。
ストーリー、というか結局あいつはどっちなんだという議論は40年近くに渡ってなされているようですが、個人的にはどっちでも良いんじゃないかと思います。
とにかく視覚と聴覚に訴える部分だけで満足してしまいます。
現実世界も2019年になって宇宙入植も人造人間も空飛ぶ車すら実現しなかったのはちょっと悲しいですが、核戦争や深刻な環境汚染は実現しなくて良かったです。