砂の女

自由とは——

安部公房の小説『砂の女』から影響を受けてるかもしれない「ミッドサマー」がなかなか衝撃的だったので映画版を鑑賞。

【あらすじ】
海辺の砂丘地帯の部落に昆虫採集に訪れた男は砂に埋もれた家に宿を借りる。
一夜の宿のつもりが砂に阻まれ抜け出せなくなる男。
家と生活を守るために男を引き留めようとする女。
逃亡を企てる男を監視し、穴の上から嘲笑う部落の人々。
蟻地獄にかかった獲物のように男は砂の穴を滑り落ちていく——

【映画について】
ほぼ原作通り。(読んだのが何年も前なので細かい所はうろ覚えですが…)
もちろん完全には表現できない部分はあるけど、かなり忠実に安部公房の世界を再現しています。

50年以上前の映画なので現代の映画と比べるとどうしても分かりやすい刺激には欠けますが、そのぶん想像力を働かせながら観る楽しみ方ができます。
得体の知れない集落から脱出を試みる話なのでサスペンスとしても十分に面白いんですけどね。
寓話でありサスペンスであり科学教室のようでもあるという掴みどころの無さに引き込まれます。
モンタージュを使ってシュルレアリスティックな空気もちゃんと表現出来ていてGood。
安部公房独特の修辞は映像表現でうまく代替されてる感じがします。

時代の割にはそこまで古くささは感じないけど逃走シーンの臨場感がゼロなのは残念。
演出ではなくたぶん当時の技術的な限界だと思います。

【内容について】
映画を通して集落の女=奴隷、主人公の男=自由民という図式が侵食されていきますが、その描き方がうまい!
この映画は特殊な人物(心を大いに病んだ人間)の魂が最後に解放されるような話ではなく、平凡な人間の価値観が少しずつ侵される話です。
そのため鑑賞者にも直接「自由とは何であるか」という問いを投げかけるような内容になっています。

砂に侵された集落での生活は不条理だしそれに甘んじる女の心理は理解し難いと思います。
しかし砂ではなく雪だったら?
卑近な例に置き換えて考えてみるだけで見え方が違ってきます。
一見道理にかなわないことを「なるほどそういう見方もあるのか」思わせるストーリーは見事。
しかし巣篭もりする自由なんてなかなか思いつくもんじゃないですね。

さらに「足ることを知れ」とフロンティアスピリットを否定するのではなく、現状打開のヒントはわざわざ外に出て行かなくても穴の中にも転がってるかもよという展開にはちょっと勇気付けられます。
何が希望で何が絶望か分からなくなっていく物語なので少し怖くもありますが。

しかしたまに急展開はあっても基本的には砂が風で少しずつ運ばれるていくような気怠い雰囲気に覆われているのがこの作品の魅力だと思います。
ラストの呆気なさは新鮮。
それだけに終盤の太鼓のシーンとか映像的には面白いけどちょっとくどい気が…

【総評】
安部公房ワールドをそのまま映画化してて凄い!
それでいて映像でしかできない表現にも成功してます。
さすがにちょっと古い箇所もあるけど、それでも十分見応えがありました。
作品のテーマも過不足なく盛り込まれています。
原作読んでても未読でも楽しめるんじゃないでしょうか。

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